ロボット製作が好きだけど、社会問題にも関心が
何足もの草鞋(わらじ)を履く、渋谷教育学園渋谷の佐藤裕成アレックスさん(高1)
「あなたは理系?それとも文系?」
日本の高校生なら、一度はこの質問をした/もしくは受けたことがあるのではないでしょうか。これは大学受験時の科目選択が、理系・文系で異なることが要因の一つとして考えられます。しかし海外の大学を見てみると、入学時に理系・文系の区別をしているところは稀といえます。そして国内に目を向けても、数学者でありながら音楽家でもある人や、研究者であると同時に文化人でもある人など、経歴・職業を「理系」「文系」で分けることができない人はいます。
今回紹介するMANAI生の佐藤裕成アレックスさんもそのような一人。中学では理科部に入り、塾などでもプログラミングの勉強を続けてきたが、社会問題や国際問題にも視野を広げ、世界で通用するコミュニケーション能力やリーダーシップを身につけたいと、現在は模擬国連にも参加しています。また力を入れているロボットコンテストの場合も、国際大会に出て英語を使い、いろいろな国の人と交流して交友関係を広げたいとの思いから、国内会場のみの大会ではなく、決勝戦などが海外で開催される大会を選んでいるということです。
佐藤さんに現在取り組んでいる研究や、MANAIに入るようになった経緯などについて伺いました。
――MANAI生になったのはいつでしょうか?
(佐藤さん、以下佐藤)中学3年生だった2020年春です。既にMANAI生であったジョシュアからMANAIの話を聞いていて、面白そうだと思って通うようになりました。
――ジョシュアさんとは違う学校だと思いますが、どのようにして知り合いになったのでしょうか?
(佐藤)ジョシュアとは2019年に参加した大会で知り合いました。学校は違いますが、当時ジョシュアは渋渋の系列校に在籍していました。(注:ジョシュアさんは現在、MANAIとの両立を可能にするために、自宅に近いインターナショナルスクールに転校しています。詳細についてはこちら:【研究紹介】データ分析と医療・衣笠ジョシュアさん | MANAIから。)それぞれ学校から1チームずつの参加だったので仲良くなりました。
――その時知り合いになったことがきっかけで、ジョシュアさんを誘ってJAXAの「きぼう」プログラムに出場したのでしょうか?
(佐藤)はい。JAXAのHPで「きぼう」プログラムのことを知り、ジョシュアともう一人の計三人で参加しました。

JAXAの「きぼう」ロボットプログラミング競技会(Kibo-RPC)に参加した時の様子(一番左が佐藤さん)。
――プログラミングや科学には昔から関心があったのでしょうか?
(佐藤)小学校の時からAIや宇宙系には興味がありました。ロボティクスは実際にやってみて楽しかったです。宇宙開発に特に興味を持ったのは、イーロン・マスク(のスペースX)が「ファルコン9」ロケットの再利用に成功したというニュースをテレビで見てからです。小学校でも話題になっていました。また、家の近くにJAXAの施設がある影響も大きいかもしれません。博物館などの展示を見て宇宙に興味を持つようになりました。ただ、中学受験があったので、具体的に何かをしていた訳ではありません。(注:佐藤さんは帰国子女入試で受験しています。)
――中学では部活に入っていましたか?
(佐藤)理科部に入りましたが、今は幽霊(部員)に近いです。理科部のロボコン班にいるのですが、理科部では国内大会しか目指していません。僕は国際大会に出たいと思っていたので、ロボカップジュニアを目指すためにロボットのことを学べる塾で中2からロボティクスの勉強をしています。
――現在の研究内容を教えてください。
(佐藤)一つは、衛星の設計コンテストのために宇宙技術、具体的には人工衛星の設計について研究しています。SpaceX社のStarlink計画では、最終的には42,000基の衛星を打ち上げようとしています。その衛星に使われている太陽光パネルは、今の技術では30年ほど使えます。一方、Starlinkの衛星は低い軌道上を回っているため、運用できる年数は5年ほどといわれています。42,000基の衛星を大量生産すること自体は高度な技術ではありません。難しいのはその廃棄プランです。
衛星の廃棄システムとしては、「導電性テザー」(EDT)というものが多くのところで研究・実験されています。宇宙開発も持続可能なものであるべきです。その大きな問題の一つがスペースデブリ(space debris、宇宙ゴミ)です。Starlink計画では、すでに2,000基近い衛星を打ち上げています。10年後にはその数が5,000~1万基ぐらいになるかもしれません。(最終目標である)42,000基が地球の上空にあって衛星同士の衝突が起きた場合、負の連鎖が発生する可能性があります。具体的には、衛星同士の衝突で破片が飛び→それがまた違う衛星にぶつかる→新たな衛星同士の衝突が起こる、ということがあり得ます。(広い意味での)宇宙法には、25年以内に衛星を廃棄するというルール(注:国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)のスペースデブリ低減ガイドラインと、機関間スペースデブリ調整委員会(IADC)のスペースデブリ低減ガイドライン)がありますが、法的拘束力はありません。この前(2021年5月)も、中国のロケットの一部が地上に落ちました。また、天文学者たちは多くの衛星が打ち上げられると、星が見えなくなる(=天文研究に支障が出る)と心配しています。このようなことから、宇宙技術に関する持続可能性について研究したいと思っています。
――どうしてこの研究をしたいと思ったのでしょうか?
(佐藤)宇宙探査が話題になっていますが、その問題点は今から考えないとダメだと思います。10年後、(Starlinkによる)衛星コンステレーションが完成して負の連鎖が起きてしまったら、宇宙開発は進まなくなります。また、日常で衛星を打ち上げられなくなると、インターネット通信ができなくなる可能性もあります。このようなことから、今の社会の持続可能性に関心を持ちました。

MANAIのラウンドテーブルで研究を紹介する佐藤さん。
――現在の研究はどのようにして進めていますか?
(佐藤)衛星については公開されている情報が少ないので、高校生ができることには限度があります。僕は太陽光パネルの再利用に興味があるので、再利用した際のリスクなどをシミュレーションで計算したいと思っています。衛星に使われている多くの部品は耐用年数が長いので、サステイナブルな技術があれば再利用することができます。どのようにしたら(次の衛星に)安全に渡せるのか、モジュールごと渡すとか。太陽光パネルは30年ほど使えるが、紫外線など宇宙(空間)だと環境が(地上と)違うので、その影響がどのくらいあるのかなどについて調べています。
――MANAIに入ってよかったと思うのはどのようなところですか。
(佐藤)学校とは違って理系の施設などがあるのが大きいです。メンターの人たちは気さくですし、英語で話し合えること、専門的な研究ができる点がいいです。ワークショップやセミナー、イベントに参加することでいろいろな体験ができます。ロボカップの準備と衛星の研究では、3Dプリンターを使うために(MANAIの)市ヶ谷(施設)に週に1~2回は来ています。

メンターと話し込む佐藤さん(一番右)。
――部活などMANAI以外で活動していることはありますか?
(佐藤)JAXAが主催している衛星設計コンテストは、学校の人とチーム(6人)を組んで出場しています。秋(9月ごろ)に予選の発表がありますが、今年はコロナの関係で本選はオンライン開催になります。また、FIRSTという団体が主催しているロボティクスの国際大会(FIRST Global Challenge)があって、その日本代表チーム(高校生からなる14人)にも入っています。
――ということは三つの研究と模擬国連の準備を並行して行っているのですね!
(佐藤)そうですね。本選や模擬国連が行われる秋までは結構忙しいです(笑)。