「ハチ」と聞いてみなさんが思い浮かべることは何でしょうか?はちみつ・ミツバチ・黄色と黒の縞模様といったところでしょうか。東京都墨田区にある「安田学園高等学校」の生物部は、知る人ぞ知るハチの研究部です。今回は、MANAI GRANT(https://manai.or.jp/ja/grant/)を受賞した安田学園高等学校生物部の河野洋(なだ)さんと渡邊あかりさんにお話を伺いました。

安田学園高等学校生物部の小島先生(左)、渡邊あかりさん、河野洋さん(右)。
JR「両国」駅から徒歩5~6分に位置する安田学園の歴史は長く、大正12年(1923年)の創立(東京保善商業学校)です。昭和23年(1948年)に安田学園高等学校となり、平成26年(2014年)に中学・高校において共学化されました。現在の生物部(https://sites.google.com/view/yasudabioclub/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0)の顧問は小島直樹先生(理科教諭)。小島先生ご自身も大学で生物学(ハチの研究)を専攻されています。このような背景があり、安田学園では約10年前から学校で養蜂を実施。屋上でミツバチを、そして昔の暗室を利用した一部屋でマルハナバチの巣を飼育しているというまさに「ハチ部」ともいえる部です。
MANAI GRANTを受賞した研究のタイトルは「クロマルハナバチの死体排除行動 ―巣内の死体を認知する仕組みの解明に向けて―」。簡単にその内容を説明しますと、社会性昆虫であるクロマルハナバチは、巣の中で仲間のハチが死ぬと、別の働き蜂がその死体を認知して、巣の外にその死体を移動させます。巣の中を衛生に保ち、疫病などを防ぐためだといわれています。しかし、どうやって死体を認知しているのかは分かっていません。河野さんと渡邊さんの2人はその認知の仕組みを、そして認知に関わっている化学物質を特定しようとしています。先日、安田学園にお邪魔し、2人に生物部に入った理由や研究を始めたきっかけなどについて伺いました。
――2人はともに中学の時に安田学園に入学していますが、安田学園を志望した理由は何でしょうか?
渡邊さん「私は中学受験の時、生物部がある学校を選んで受けました。安田学園は国・算・英の3教科受験でした。生き物全般が好きで、家ではメダカと犬を飼っています」という。根っからの生物好きである渡邊さんは、大学受験では畜産系を目指す予定で、将来は動物園や水族館の飼育員も視野に入れているそうです。中学入学後は迷いなく生物部に入部しました。
一方の河野さんは、「小さいころから科学・実験好き。家ではヤモリ・ザリガニ・カブトムシなどを飼っていました。ただ、安田学園に生物部があることは事前には知りませんでした。入学後、GWに開催された生物部の春合宿(2泊3日)が楽しく、生物部への入部を決めました」と話す。生物部では例年、春と夏に合宿を行っていますが、今年も新型コロナウイルスの影響で実施できず研究の一部に支障が出ています。というのも、GWあたりはちょうどマルハナバチの女王蜂が生まれる時期で、生物部では毎年、春合宿で女王蜂を捕まえ、学校に持ち帰っていました。普段なら20~30コロニーを育てているマルハナバチも、現在は半分以下のコロニー数で研究を続けています。
――現在の研究はいつからやっていますか?
(安田学園)私たちは同級生で、同級生の部員は2人だけ。生物部では中3あたりから本格的に研究に入るが、いくつかの候補の中からこの死体排除行動を選びました。クロマルハナバチの巣の中は通常真っ暗です。真っ暗ということは何も見えない状態のはずですが、そういう環境下でもなぜ死体を見つけて外に運ぶことができるのかに興味を持ち、この研究にしました。今年で3年目になります。
――現在、研究で苦労している点はありますか?
(安田学園)死体の体表物質の変化が予想とは異なっていたため、ガスクロマトグラフィーなどを使って分析したいと思っていますが、学校にはない装置なのでどう研究を進めるか検討しています。 →MANAIでは継続した研究サポート、大学研究室等への橋渡しも行っています。
――普段の活動スケジュールを教えてください。
(安田学園)生物部の活動日は月・木・金・土の週4日です。最終下校は19:00で、だいたい毎回、その時間まで残っています。夏休みはまとまって研究ができる時期なので、毎日でも登校したい感じです(笑)。
――失敗談はありますか?
(安田学園)エサである糖液を補充し忘れて、1つの巣が全滅したことがあります、、、、。

暗室で飼育しているマルハナバチの巣。一つの木箱に一つのコロニーが生息している。ハチは赤色を視覚的に認知できないため、ハチにとっては真っ暗な空間になっている。
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河野さんと渡邊さんは帰宅後も、小島先生が見つけてくれた先行研究の論文を読むなどして、ハチ研究に没頭しているそうです。当然、海外の論文は英語で書かれていますが、渡邊さんは英語受験をしたこともあり、英語への抵抗感は全くないという(幼いころから習い事で英語を勉強してきた)。そして河野さんも「専門的な科学用語は辞書を引かないと分からないが、高校2年生の英語力でも十分論文を読むことはできる」と全く足枷になっていない様子。
2人にとって今年の夏は、研究に取り組める最後の夏。MANAIでもその研究成果を楽しみにしています。