医者志望から起業家へ   

フェムテック業界を牽引する「fermata」社長・Aminaさん

MANAIにゆかりがある人を紹介する「MANAIピープル」。今回は、アカデミア→シンクタンク→スタートアップ支援という多岐に渡る業種を経たのち、フェムテック関連の会社「fermata」を2019年に設立した杉本亜美奈(Amina)さんにお話を伺いました。

最初にAminaさんのバックグラウンドを簡単に説明しますと、東南アジア系の父と日本人の母を持つAminaさんは、幼いころをアフリカ・タンザニアなどの海外で過ごしています。高校は、イギリスのUnited World College of the Atlanticに進学。大学は、ドイツのJacobs University Bremenで生化学などを専攻しています。物心ついたころから将来は「医者になる!」と周囲に話していたというAminaさんですが、Jacobs大卒業後の進路を考えた時に「自分には医者は合わない」と判断。東京大学大学院では医療政策などを学んでいます。医者志望から一転、起業家となった経緯をご紹介します。

――公衆衛生のPhDをお持ちです。ヘルスケア分野を専攻された理由は?

(Aminaさん、以下A)専攻したのは公衆衛生の中でも「医療経済」という分野。現場にいる医者・看護婦に対し、制度や薬の単価・医療報酬などを考えるのが公衆衛生の世界です。この2つは絶対に必要で、医者にならないと決めた時点で必然的に(選択肢は)公衆衛生でした。医療以外の道を考えたことはありません。

アフリカでは、村にコーラはあってもコンドームはなかったり、病院にマラリアの薬があったとしても使われていなかったりと、途上国に限らず医療物資へのアクセスにはいろいろな問題があります。法整備などそういうことを改善していくのが好きです。広い公衆衛生の中でもアクセスの問題、医療経済を選んだというのは、自分でも気づいていない小さいころの経験・関心が残っていたからかもしれません。

 

――Jacobs大学を選んだ要因は何でしょうか?

(A)アメリカは遠すぎて、イギリスは学費が高過ぎました。同じ高校の卒業生でJacobsに進学する人はけっこういて、妹もJacobsに行っています。我が家は、高校以降の学費を親がほとんど出していない家庭で、大学院・PhDも奨学金。日本の国立大学は圧倒的に学費が安く、その理由から東大にしました。同級生も自分で学費を出している子がほとんど。お金がないから一年間gap year(休学)を取る人もいました。

 

フェムテック(Femtech)とは:

FemaleとTechnologyを組み合わせた造語。テクノロジーを使って女性が抱える健康問題をサポート、解決するモノ・サービスのことを指す。日本でもここ数年市場が拡大していて、経済産業省は2025年にはフェムテック業界は年間約2兆円の経済効果を生むと試算している。

――フェムテックに関心を持ったきっかけはあるのでしょうか。

(A)公衆衛生の世界もまた自分に全然合わないと思いました。ただ、ヘルスケアの世界には残ると思っていたので、London School of Hygiene and Tropical Medicine (LSHTM)でPhDまでは進んだ。グローバル的にはハーバード、ジョンズホプキンス、LSHTMがトップ3。そこで公衆衛生のPhDを取ったら、ある程度道が開けると考えました。ずっと研究者でいるつもりはなかったので、博士を取り終わる半年ぐらい前からいろいろなところで仕事を始めました。シンクタンクでは認知症の国際学会の日本誘致などを担当しました。

fermataのアドバイザーを務める孫泰藏さんと出会ったのはある教育関連スタートアップの飲み会で。とても面白い人だと思い、ここも直感で「泰藏さんのところ(ミスルトウ)で働いていいですか?」と聞いた。(スタートアップのことは)何もできなかったがアルバイト的に働くことに。今までいた世界は政策で、黒いスーツを着てがっちりという感じでした。(一方)泰藏さんの会社はキラキラ見え、この人たちの仲間になりたいと思いました。

ミスルトウの関連でサンフランシスコに行った時、妊婦の筋肉のcontraction(収縮)のデータを取って予測するサービスを提供している(フェムテック企業の)founder(創業者)と知り合いました。まだフェムテックのことは考えていなかったが、面白いということで少額の投資をしました。その時、実際に商品を市場に持っていく際の規制(対策)やマーケティング方法が足りないと感じ、その辺りのアドバイスを始めました。個人としてフェムテックに出会ったのはこのような支援からです。

 

――そこからどのような経緯でfermataを立ち上げることになったのでしょうか?

(A)フェルマータ自体は泰藏さんが付けてくれた健康関連の投資をするグループの名前で、そのプロジェクトは1回終わりました。(ミスルトウやほかのスタートアップで仕事をしているうちに)仕事のやる気や達成感と高額な給与がマッチしないと思うようになり、自分が何をやっているのか分からなくなりました。そのような時に日本に帰国するタイミングがあり、GWの休みを使って事業計画を立てることにしました。そこに(たまたま)参加したのが(共同創業者となる)中村寛子。

もともと女性の健康とか女性の権利とかに興味があったわけではなく、中村の方がそちらに興味を持っていました。ミスルトウのプロジェクトでフェルマータをやっていたから、女性の健康周りでサービスをやってみようというのが始まりです。

 

――今後の事業展開は?

(A)フェルマータの1つの事業としてやりたいと思っているのが、薬機法まわりのDXです。ロジックはあるが明確なルールがあるかといったらそうでもなく、それが見えないからこそ薬事法を避ける企業は多い。スタートアップとかが薬事をハードルと思わない形で参入できるサービスを作りたいです。何をしないといけないか、どれくらいコストがかかるのか、どのくらい時間がかかるのか。AIを使って予測化できたらいい。

 

Aminaさんありがとうございました!

Amina Sugimoto【フェルマータのCo-founder / CEO、DrPH(公衆衛生博士)】

東京大学修士号、London School of Hygiene & Tropical Medicine (英) 公衆衛生博士号取得。 福島第一原子力発電所事故による被災者の内外被曝及び健康管理の研究を行い、東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調)のメンバーでもある。日本医療政策機構で世界認知症審議会 ( World Dementia Council ) の日本誘致を担当。厚生労働省のヤングプロフェショナルメンバーにも選ばれ、「グローバル・ヘルスの体制強化:G7伊勢志摩サミット・神戸保健大臣会合への提言書」の執筆に関わる。近年、Mistletoe 株式会社に参画。また、元 evernote CEO の Phil Libin 氏が率いるAIスタートアップスタジオ「All Turtles」の元メンバーでもある。国内外の医療・ヘルスケアスタートアップへの政策アドバイスやマーケット参入のサポートが専門。